医療の基本

医学、医療とは何をめざすべきなのでしょうか。
今更何を言っている、といぶかしく思われる方も多いと思いますが、

本年より始まったメタボ健診はその根源的な問題を
問うているといっても過言ではないのです。

従来の人間ドック型健診は年に一度、悪いところはないか探しましょうという健診です。

「悪いところ」
すなわち治療が必要な病気が見つかったら医療に移行しましょう、というものです。
では特段「悪いところ」が見つからなかったらどうするか?
『特に「悪いところ」はありませんでしたので、
また来年来て「悪いところ」ができてないかを探しましょう』
ということになります。
極端な言い方をすると病気になるのを待って、
病気が見つかった人を医療に送り込むのがこの健診の役割です。

もちろんこのタイプの健診も非常に重要で、
病気がかなり進行して治療が難しくなってからはじめて医療機関を訪れるよりは、
ずっと早期に、より簡単に病気を治療できるわけですから、
この健診の意義が否定されるものではありませんし、
それよりもっと利用されるべきだと私自身も考えております。

ところで、今回のメタボ健診は厳密な意味での「悪いところ」を見つける
健診ではないのです。
もちろん広い意味では、メタボ自体は「悪いところ」に該当しますが、
まだ病気という範疇ではないのです。

本格的な病気になる前にその予防策をとりましょうという大変画期的な試みなのです。
最近の医学の進歩により、糖尿病、高血圧、脂質異常症(高脂血症)などの病気は、
肥満と深く結びついていることがその詳細な発症メカニズムを含めてわかってきました。

糖尿病、高血圧、脂質異常症等は動脈硬化をもたらし、
脳卒中、心筋梗塞といった死に至る動脈硬化性疾患に直結することもわかってきました。

そこでその肥満対策を行うことにより、
これらの病気を予防しようというのが今回のメタボ健診なのです。

メタボの基準に引っかかった人たちには「治療」ではなく、
「指導」が行われます。
これは個人の生活習慣が深く肥満の進展に係わっているためで、
指導により生活習慣を変えていただこうというのが主旨です。

個人の生活習慣はそれぞれ異なりますから、
個々に合わせた指導が重要になります。
まだこのような予防研究は始まったばかりで、
この手法がどの程度有効かということが確認されているわけではありません。

いくつかの疫学試験等で有効であるとのデータは出そろってきておりますが、
これが長期にわたって有効性を維持できているのか、
どの程度改善させられるのかの一定の知見は得られておりません。

今後メタボ健診の総合データがまとめられたとき、
ある程度の結論が出るものと思います。
もしかしたら総合的には惨憺たる結果に終わるかもしれませんが、
個別にはすばらしいデータが出ると、私は信じております。