病気の”リスク”を考えるための正しい基準とは

最近外来で”リスク”の話をすることが多くなりました。
また読者の皆様の中にも病院やクリニックに診察に行って”リスク”という言葉を聞かれる機会も多くなったのではないでしょうか。

漠然と使っている”リスク”ですが、”リスク”というのは何なのか、についてお話します。
“リスク”は英語で危険という意味ですね。特に病気の話でこの言葉が出てきた場合は、どの程度病気になる危険が迫っているか、すなわちどの程度その病気になる可能性が高いか、といったときに使われます。
つまり現状ではある病気になっているわけではないけれど、近い将来その病気になる可能性が差し迫っている、ということを意味します。
病気にならないように生活習慣を考えていく上で、この”リスク”という考え方は重要です。

病気の”リスク”を常に考え、”リスク”を最小限にするためにはどうするか、ということが今後の医療を考える上で非常に重要になってくるということです。

そうはいっても、”リスク”が高いとか低いとか何を基準に考えればよいのでしょうか?
厳密なことをいえばこれを知るためには統計学の知識が必要となりますが、とりあえずは新聞や雑誌の記事にだまされない程度のリスクが高い、低いを判断する上で重要なポイントについて解説をしたいと思います。

よく新聞や雑誌などの記事やテレビ番組で、○○をすると××の病気になる確率が50%増えます、といった表現を見かけます。それではこの○○という行為は本当に危ない行為(すなわちリスクを高める行為)なのでしょうか?
50%増えると聞くと結構リスクが増えたように感じます。それでは○○をすると××の病気になる確率が1.5倍になります、というのはどうでしょう、多少印象が和らぐのではないでしょうか?

しかしこれら2つの表現は同じ”リスク”を示しています。
これは○○という行為をやる、やらないという2つの集団でどの程度病気の頻度が変わってくるかを示した”相対リスク”という表現の仕方です。
ところで同じ”相対リスク”でも比べる集団の規模により○○という行為の影響力が変わってきます。

ここで別の表現方法を見てみましょう。
たとえば、××という病気になる確率は1000人あたり10人ですが、○○という行為をするとそれが15人に増えます、という場合はどうでしょうか。
これは1000人あたり5人も××という病気を増やしてしまうので、けっこう影響力があると考えるべきでしょう。

ところが××という病気は本来1万人あたり4人の頻度で起こりますが、○○をするとそれが6人になることがわかりました、ではどうでしょうか。
1万人で2人の増加ですからあまり大したことはなさそうという印象になりますが、この表現方法を”絶対リスク”といいます。いずれの場合も前述した”相対リスク”でいうと50%増加、1.5倍増加で同じことです。

いかがでしょう?同じ確率を表していても表現の仕方でずいぶんと印象が変わってくることがおわかりかと思います。一般的に調べた集団の規模によりその行為の影響度が変わってきますので、”相対リスク”より”絶対リスク”の方が真のリスクを知る上では重要となります。

ところで、新聞雑誌の記事では作者が数字をどうみせたいかにより、表現の仕方を変えます。

たとえば薬剤の副作用の記事で、従来の薬剤では1万人あたり4人の副作用が発生したのが、新しい薬剤では1万人で6人に増えたという事実があったとします。

この事実がそのまま記事になって読むとあまり大したことはないな、という印象ですが、書き方を変えて、「新しい薬剤では副作用の発生率が50%増加」、などというタイトルがつくと、にわかにすごい数の副作用が発生したように感じます。

前述したように、”相対リスク”より”絶対リスク”の方が真実の姿を見ることができるのですが、なかなか元の数字を語らない記事が多いのも事実です。

その違いをしっかりわきまえて”リスク”を判断することが大切ですね。