副作用から身を守るということ

CIOMS(Council for International Organization of Medical Sciences)という
学術団体の会議へ出席のため、先週ロンドンに行ってきました。
このCIOMSという団体はWHO(世界保健機構)とUNESCO(ユネスコ)とが
共同で作った学術団体で、
私は薬剤の副作用監視に対するいろいろな提言を行うグループに所属しています。
現在のグループでは如何に早く薬剤の重大な副作用を捉えて、
医療現場に注意喚起を行うかというシステムの提言を話し合っています。

病院で使われるお薬は、残念ながら程度の差はあれすべて副作用があります。
主作用である有効性に優れる薬剤は、
裏腹に副作用も強いものが多いのです。
このため製薬企業は多くの臨床試験を通して
有効性と副作用のバランスを確認しながら、
最終的に国の承認を受けて医療機関に向けて販売しています。

よく、副作用のあるようなクスリをなぜ国は承認したのだと怒る
患者さんがいらっしゃいますが、一定の頻度で副作用が起こることを前提に
薬剤は承認されるのです。

有効性と安全性のバランスがよいもの(ベネフィット・リスクバランスといいます)、
すなわち有効性が高く、
副作用が少なく安全性の高い薬剤(副作用はゼロではありません)が
理想的な薬剤です。

臨床開発の段階では臨床試験に参加した患者さんの数は
日本国内だけですと、多くても1000人程度、
グローバルに展開している製薬企業の場合、
海外の臨床試験も含めると3000人から5000人程度です。
たとえば5000人の患者さんに使われ、
そのうちの1例に重大な副作用が発生したとすると0.02%の発生率となります。

ところが各国で承認になって使われ始めると、
世界中で10万人と100万人に使われるようになり、
かなりの数の重大な副作用が発生することになるのです。
そのため製薬企業や国(厚生労働省やその関連機関)によって
副作用の情報収集と分析が行われ、予期しない副作用が起こっていないか、
特定の条件下で
(特定の薬剤といっしょに使うとか、心臓などに病気を持った患者さんの集団とか)
特定の副作用が起こっていないかを監視しています。

今回のロンドンでの会議では
そのような副作用発生の兆候を如何に早く捉えるか、
その捉えた兆候をもとに、どのように医療機関や患者さんに
届けるのかといったシステムを作り上げるための提言をまとめております。

新聞報道などで取り上げられる薬害問題は
この副作用の監視がうまくいかなかったために起こったものです。
血液製剤で起こったエイズや肝炎は、
副作用の情報を捉えていながらその情報提供が遅れたり、
副作用情報の分析が不十分で副作用の広がりを過小評価したために起こりました。

現在でも副作用を捉えて情報を分析するシステムは存在します。
でも必ずしも完璧ではありません。

この薬剤を使えば病気が治ると信じて使った薬剤で思わぬ副作用を起こり、
別の重大な病気になってしまうことは大変不幸な出来事ではありますが、
いつ誰の身にも起こりうることなのです。

病院や調剤薬局で副作用情報を聞かされ、
飲むのが怖くなったという話を良く聞きますが、
副作用から身を守るのは自分自身なのですから、説明は良く聞いてください。
そして説明を受けた副作用と同じような症状が起こったらただちに医師に相談してください。