エイズのおはなし -その2-

エイズウイルスは非常に巧妙に、人のT細胞という免疫の司令塔の役割を果たしている細胞に限って感染します。

ここでちょっと免疫の仕組みをお話ししておかないと、ことの重大性をご理解頂けないかもしれないので、ややこしいですが今回は免疫のお話しということにしたいと思います。

まず病原菌やウイルスなどの外敵が体に侵入してくると、まずマクロファージとか白血球とかの外敵なら何でも攻撃する細胞がまず第一陣として攻撃します。

これらの細胞の攻撃というのは、外敵をそのまま細胞自らの中に取り込んでしまうことです。
そしてその細胞の中で外敵を消化、分解します。
これは原始的な免疫のシステムで、人ではさらにもう少し進化した「抗体」を使うシステムも持っています。「抗体」という言葉はよく聞かれるのでご存知かと思います。

外敵を分解したマクロファージや白血球は、その分解した外敵のタンパク質の切れ端を細胞の表面に出します。
昔の戦いで敵の大将の首を取ったら、槍の先に高く掲げてやっつけたことを自慢しましたが、簡単に言うとそんな感じです。

さて話題のT細胞ですが、T細胞には細胞表面にでている分子の種類に2種類あって、細胞表面にCD4と呼ばれる分子がつきだしているT細胞をCD4陽性T細胞、もう一つはCD8と呼ばれる分子がつきだしているT細胞をCD8陽性T細胞といいます。
エイズで重要なのはCD4陽性T細胞の方です。

以下T細胞といったらこのCD4陽性T細胞だと思って下さい。
さてマクロファージなどが敵の大将の首を細胞の表面にかかげますと、T細胞はCD4という分子でその大将の首を「そうか敵はこんな顔のやつか」ということで認識します。
そうするとT細胞の中でその情報を処理して、今度はそれをB細胞という同じくリンパ球の仲間に情報を渡します。

つまりマクロファージがやっつけた大将の似顔絵をT細胞が作って、それをB細胞に渡すわけです。
そうするとB細胞は、もらった情報にぴったりの「抗体」というタンパク質を作り上げます。
この抗体というタンパク質は非常に多種多様のものがあって、T細胞から情報を受け取ったB細胞は、その情報をもった敵を効率よく攻撃するための抗体を作り出します。
つまり敵の大将の似顔絵と同じ顔を探し出す専門の足軽を育てて、同じ顔の敵を見つけたら、マクロファージなどの大御所が出陣する前に足軽だけで攻撃してしまうというものです。

冒頭に「T細胞は免疫の司令塔」といった意味はこのようなことです。

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さて話を元のエイズウイルスに戻しますと、エイズウイルスはこのT細胞表面のCD4という分子にくっつくのです。
前回のエイズウイルスのイラストを見て下さい。

エイズウイルス表面にもGP120という分子が飛び出していますが、これがCD4にぴったりはまりこむのです。
さてCD4という分子にくっついたエイズウイルスは、今度はCCR5という名前の同じくT細胞表面にでているタンパク質にくっついて、T細胞の中に入り込んでいきます。

CD4だとかCCR5だとか色々訳のわからない名前が出てきますが、単にT細胞の表面に突き出しているとげ状の分子に記号が付いているだけですので、難しく考えないで下さい。
こうしてエイズウイルスは、T細胞の中に入り込んで、細胞の中でわるさを始めるのです。

続きは次回に・・。