今回は第5回目のおくすり講座となります。
日本人は薬好きの国民として知られています。何かというと薬に頼る傾向があります。
風邪など1~2日ゆっくり寝ていれば症状は良くなるのに、薬局で市販薬を買って飲み、良くならないからとクリニックに行って医療用の医薬品を処方してもらいます。
「医師なのにどうしてそんなことを言うの?」と仰る方もいらっしゃるかもしれませんが、よく考えてみてほしいのです、薬には必ず副作用があります。良いことばかりではありません。
むしろ効きめが強い薬ほど副作用も強いと言えます。
ですから本来は、よほどのことがない限り、薬など飲まない方が良いのです。
これが薬の開発や販売後の安全管理に長年携わってきた者としての正直な感想です。
もちろんすばらしい薬も数多くあります。
ただそのすばらしい薬が使い方を間違えると凶器になってしまうのもまた真実です。
ちょっと想像してみてください。あなたがかかっているお医者さんが実は薬のことをよく知らずに薬を処方しているとしたらあなたはどうしますか?あなたの主治医はほんとうに大丈夫ですか?
医療用の医薬品には必ず添付文書といういわゆる薬の取扱説明書がついています。
ここには国によって承認された内容が書かれています。その薬が使われるべき病気の種類、使い方や量(用法、用量といいます)、使ってはいけない場合はどんなときか、どんな副作用が出るのか、他の薬と飲み合わせはどうか、国の承認にあたってその根拠とした臨床試験のデータなど盛りだくさんの内容になっています。この添付文書をきちんと読めば、その薬のことはだいたいわかります。
ただ一般的に家電製品などでもそうですが、取扱説明書は読みにくい、わかりにくいのが通例で、添付文書もご多分に漏れません。
ですから多くのお医者さんは添付文書を読んでくれません。
製薬企業はこの添付文書の内容を作るために10年以上の歳月と数百億円の費用をかけているのに、です。
薬剤師さんはもちろん薬のことが専門ですからちゃんと読んでくれます。
でも実際に処方箋を書くのはお医者さんで、お医者さんには添付文書で規定されている用法や用量以外の内容で処方しても、その患者さんの治療に役立つのであれば良い、ということになっています。
もちろんこれは患者さんにその旨きちんと説明して、納得していただくことが前提ですが。
ですから薬剤師さんもうかつにこの処方は間違っていますとは言えないのです。
これが時々副作用の悲劇を生みます。
薬の副作用には2つの種類があります。
ひとつは薬の本来持っている作用が期待以上に強く出てしまう場合(A型:Augmentedといいます)、
もうひとつは全く予想できなかった作用が出てしまう場合(B型:Bizarreといいます)です。
A型の副作用は動物実験の段階、臨床試験の段階でだいたい症状や所見が現れるので、添付文書にしっかり記載されています。
しかしB型はいつ、どんなときに、どんな人にでるのか皆目見当がつきません。
ですからBizarre(異様なといった意味)というのです。この典型的なものが薬疹やアナフィラキシーというアレルギー反応です。
薬の飲み合わせで出てくる副作用は、大抵はA型です。
A型の副作用は早く気がついて薬を止めれば事なきを得ますが、本来の病気が悪化したのではと逆に用量を増やしてしまう場合やその症状を抑えようと別の薬剤を追加して返ってひどくしてしまう例などがあります。
出ている症状が病気の症状なのか薬の副作用なのかはなかなか判断が難しいのですが、薬の副作用を疑う大原則が2つあります。
1. 新たに出た症状と薬の服用という時間的関係があること。
これは今までの病気の症状とは異なる症状が出た場合、その症状が出る前に薬を飲んでいたという
事実があること、さらにその薬の使用を止めたら症状が良くなったという事実があることです。
2. その薬を飲むといつも同じような症状が出ること。
こうなれば犯人は間違いありませんが、いつもそれほど明確にわかるわけではなく、何か関係がありそうだね、で終わってしまう事も多いのです。
しかし上記のことからもわかるように、副作用かどうかが一番よくわかるのは、お医者さんではなく
薬を飲んでいるあなた自身です。ですから薬を飲んでおかしいと思ったら上記のことを考えてみてください。
1998年に米国で発表された論文ですが、薬の副作用が原因と考えられる死亡が1994年1年間で10万人あり、これは当時の死亡者数で言うと第4位の死因であったというたいへんショッキングな論文でした。
だいぶ古い情報ですが、現在でも状況はさほど変わってはいないようで、日本ではこのような調査はありませんが、似たような状況である事は間違いないでしょう。
高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病はいったんひどくなってしまうと薬が手放せなくなりますが、薬による副作用も数多く起こっています。
先に書きましたように、副作用かどうかがわかるのは薬を飲んでいるあなた自身です。
薬を飲んでいて何かいつもと違う、何か変だと思ったらすぐにその薬を処方しているお医者さんに言いましょう。
ときどき取り合ってくれないこともあるかも知れませんが、そんなときにはメタボヘルプ.comの相談サイトに連絡してください。