NHKで夕方放映している首都圏ニュースの取材がありました。
テーマは遺伝子解析検査についてです。
昨今企業ベースで一般に対して遺伝子解析サービスを提供することが多くなっていますが、そのことについてどの様に考えるかということでした。ディレクターの方とは1時間近くお話しさせていただき、ディレクターさんとしてはこのまま放置しておいて大丈夫か、という懸念があるとのことでしたので、正直な感想を述べさせていただきました。
質問とその回答という形で簡単にまとめてみます。
Q:遺伝子解析サービスは、今後普及していくと思いますか?
A:普及していくと思います。米国などではすでにずいぶん盛んになっており、またその解析にかかる費用もずいぶん安くなってきて、拍車をかけているようです。
米国では保険や医療費が高額ですので、自分の健康は自分で守るという発想が強い人たちですが、日本は国民皆保険で守られていて、今ひとつ自身の健康管理を怠りがちです。
しかしそうはいっても昨今健康にずいぶん関心が高まっていますので、今後は普及してくると思います。
Q:今まで遺伝子の技術や知識はごく限られた研究者や専門家だけでしたが、一般に普及してくるとなると何が問題になるでしょうか?
A:一般の人たちがもっている遺伝子のイメージは、遺伝子がわかると自分が将来かかる病気がすべてわかってしまう、といったイメージで捉えているのではないかと思いますが、そのような誤解を早く解く必要があります。
遺伝子の中にはもちろんひとつの遺伝子異常が重症の病気を引き起こすという遺伝子もありますが、たとえば生活習慣病に係わる遺伝子など、その病気に対する関わり具合は半分程度です。つまり残りの半分は生活習慣、食事、栄養などで決まってくるわけです。
そのため遺伝子を計測するだけではダメで、その結果をもってカウンセリングや食事、栄養指導をしっかり行うことが重要になります。
Q:いくつかの企業が遺伝子解析サービスを提供し始めている中で、
遺伝子を解析して欲しいと思う側ではどんなことに注意すればよいのでしょうか?
A:遺伝子検査ですべての未来が決まるわけではないのですが、インターネットなどで解析サービスを受けますと、その結果がどうであったかしか返ってきません。
もし何らかのやっかいな病気の遺伝子があるとなると、それがけっこう心の重荷になったりします。
しかし実際にはそれほど1対1の関係ではないので、ひとつのガイドくらいに考える必要があります。
そのため、結果をわかりやすく説明してくれて、後どうすればよいかをしっかりと指導してくれる人が必要になります。
遺伝子を解析してその結果が重要なのではなく、その結果をその後に人生にどう生かすかの方がよほど重要なのです。
Q:現状では各企業や医療機関が勝手に遺伝子解析サービスを提供している状況で、各省庁もそれぞれバラバラの指針を出している程度ですが、法制化は必要ないのでしょうか?
A:法制化によってがんじがらめにしてしまうのはよくないですが、ある程度の基本的なガイドラインは必要だと思います。先ほども申し上げましたように、結果だけ提供されて意味づけがよくわからないままですと、本来改善しなければ行けない方向ではなく、やってはいけない方向に生活習慣を変えてしまうかもしれません。
そんなことを防ぐ意味でもしっかりしたカウンセリングができる施設を受診して指導してもらう、あるいはそのようなカウンセリングのサービス無しでは解析サービスを提供しないとかそんなガイダンスが必要かもしれません。
これは極端な例かもしれませんが、母親が乳ガンで、姉妹も乳ガンで自分も同じ遺伝子をもっているという結果が出たので、乳ガンが起こる前に正常な乳房を切除してしまったという例もあります。
これはもちろん本人にとって究極の意思決定となりますが、その意思決定を支えてくれるしっかりしたプロのアドバイスが必要になるのです。
Q:メディビックという会社がおくすり体質検査ということで、薬物代謝酵素の遺伝子検査を出していますが、製薬企業に長らくおられたということですが、これについてはどの様にお考えですか?
A:クスリの副作用というのは製薬企業にとってほんとうに悩ましい問題で、いろいろと情報収集をして、必要に応じて添付文書の中などで注意喚起をしています。ところが医療現場での情報収集には企業にとって限界があります。またクスリの投与量の設定も承認申請の過程で当局と一番もめる点で、結局多くの人のデータから平均的な投与量をもってそれが推奨用量となり、添付文書に記載されるわけです。
ところが薬物代謝酵素の遺伝子に変異をもつ人では、クスリが体内にたまって効果が強く出たり、副作用がでたりという一方、代謝の早い方では効き目が悪いということが起こりえます。自分のもっているクスリに対する反応性を知っておくことは、将来クスリを使わなければ行けない状況になったときに、安心してクスリを使用出来るようになると思いますので、自分の健康リスク管理の上では有意義なことだと思います。
Q:最後に一言まとめをお願いします。
A:遺伝子検査に対する過度の期待や恐れを払拭するためには検査に対する正しい理解をする必要があります。またその結果だけをもって一喜一憂したり、誤った意思決定をしたりということを避けるためにもきちんとしたカウンセリングをやってくれる施設で検査を受けるべきだと思います。将来的には肝機能やコレステロールなどのように通常の血液検査と同じようにルーチンで検査されるようになってくると思われますが、そのためにも正しい知識の普及は欠かせません。
この取材は10月20日午後6時10分からの首都圏ネットワークという番組で放映される予定だそうです。
私のインタビューは放送ではたぶん1、2分程度になってしまうとは思いますが、ご興味のある方は是非ご覧になって下さい。
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首都圏ネットワーク
総合 月~金 18:10~19:00
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