コロナウイルス感染症パンデミックのまとめ

2019年12月に中国武漢で始まったコロナウイルス感染症は、未曾有のパンデミック感染症となりました。

すでに色々なサイトで情報が発信されているので今更ですが、おさらいの意味で情報を整理しておきたいと思います。

 

  • コロナウイルスとは

冬期に流行するウイルスではインフルエンザが圧倒的に患者数が多く、また症状も重症化しやすいウイルスですが、コロナウイルスも元来通常の冬期にかかる風邪の原因ウイルスのひとつでそれほど強い症状を引き起こすウイルスではありません。

インフルエンザウイルスもそうですが、コロナウイルスも遺伝物質としてRNAを使うウイルスです。RNAは地球上の多くの生物が遺伝物質として使っているDNAに比べると不安定な物質のため、RNAウイルスは変異を起こしやすいのが特徴です。

 

  • 今回のコロナウィルス

今回のコロナウイルスは季節性のウイルスとはまったく異なり、コウモリの中で生存してきたコロナウイルスで、これが原因はわりませんが、変異を起こして人に感染するようになったものです。

インフルエンザウイルスもRNAウイルスで変異を起こしやすく、そのため鳥インフルエンザが流行したときに、これが変異してヒトに感染力を持つと多くの人が抗体を持っていないため大流行を起こすだろうと予測されたため、ワクチン製造メーカーでは鳥インフルエンザ用ワクチンを密かに製造していました。今回のコロナウイルス感染の治療薬として緊急臨床試験が行われているアビガン錠もそのひとつです。

  • SARS(重症急性呼吸器症候群)

 

さて今回のコロナウイルスは2003年に中国の一部で流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の原因となったコロナウイルスと遺伝子配列が80%くらい似ていたことからSARSCoV2と呼ばれています。2003年のSARSは非常に強毒性で死亡率が大変高かったのですが、感染力はそれほど強くなかったため地域での封じ込めに成功して大流行にはならずに済みました。

 

  • ウィルスの感染

ウイルスが増えて広まるためには、『感染力』と『毒性』の二つの要素のバランスが重要です。

<<毒性だけが強い場合>>

一つの感染動物の個体で大量に増えることはできますが、その個体は死んでしまうため広まることはできません。

<<感染力が強い場合>>

多くの動物個体に感染しますが、一つの個体の中ではあまり増えることはできず、個体の免疫力に抑えられてしまいます。

  • 医師としての見解

 

今回のコロナウイルスは多くの患者さんが亡くなられており、お悔やみ申し上げます。 そんな折に不謹慎かもしれませんが、医師としての見解として、誤解のないようお伝えしたいことがあります。

政府のコロナウイルス感染症対策専門家会議のある方もインタビューでおっしゃっていましたとおり、「よくできたウイルス」といっていいでしょう。すなわち、今回のコロナウイルスは『感染力』が強く、活動的に動き回る若い年齢層には強い『毒性』を発揮せず、一部の高齢者や持病のある方で非常に増殖するという性質があります。先ほどの『感染力』と『毒性』の二つのバランスがとれているということになり、ウイルスの側からすると、まさに理想的なウイルスともいわざるとえません。

 

  • インフルエンザの脅威との比較

日本国内での感染者数は5月3日現在で14,877名、死亡者数517名です。

インフルエンザはというと発生数の多かった2017年から2018年にかけての推計総数は1485万人(従来の推計法では2200万人)、2018年の死亡総数1,362,482名のうち肺炎による死亡総数は94,654人でインフルエンザによる死亡数は3,324人です。

インフルエンザは例年10月くらいから流行が始まって翌年の4月くらいで終息しますから期間としては7ヶ月間です。しかし、ほとんどが12月から2月の3ヶ月間に集中しますので、この3ヶ月に80%が発生すると仮定するとこの3ヶ月間で2600人程度が死亡していることになります。

こう考えるとインフルエンザの方がはるかに脅威のように思えるのは私だけではないでしょう。

  • 経済活動を止めるほどなのか?を考察

ではなぜ今回のコロナウイルスが世界の経済活動を止めるほど大騒ぎになっているのでしょうか。

ひとつは、インフルエンザは毎年冬に向かうと流行し暖かくなると終息するというその『限界』がわかっていること、臨床試験での効果のほどは50%程度ですがそれでもワクチンは存在し、治療薬も存在するということである種の安心感がありますが、今回のコロナウイルスはまったく様子がわからない、限界が見えないことに恐怖がある点です。

 

今回のコロナウイルス感染症は人類初めての経験で、誰が重症化するのかわからない点も脅威のひとつです。中国のパンデミックデータでは80%は軽症で、特に若年層は重症化しないことがほとんどですが、この点はインフルエンザとまったく異なりますし(インフルエンザ感染は小児が中心)、なぜそうなのかまだ解明されていません。小児や若い世代が重症化しないことや、結核予防ワクチンのBCGのワクチンプログラムのある国では大流行が起こっていないことから、BCGがコロナウイルスに有効であるという仮説もありますが、まだ明確ではありません。

  • ある遺伝子に変異の有無で、感染すると重症化?!

高齢者、合併症のある人では重症化して死亡に至る例が多い点はインフルエンザと同じですが、インフルエンザではウイルス性肺炎を起こしたところに細菌性肺炎を合併して呼吸不全を起こしますが、今回のコロナウイルス感染症では突然ウイルス性肺炎が広がり呼吸困難となり死に至る点がインフルエンザと異なるところです。

 

それだけに感染が広がると一挙に入院治療、さらにICUでの治療が集中して医療崩壊が起こる点が一番問題なのです。

 

今回のコロナウイルスは肺の細胞に親和性が高く、特にアンジオテンシン変換酵素(肺の細胞表面に多く存在)にウイルスの突起部分が結合して細胞内に入り込むことを考えると、この辺の遺伝子に変異のある人が感染すると重症化しやすいのではないかと思われます。

 

高血圧症や心臓血管系の持病がある人では感染を起こすと重症化しやすい点も何らかの関連を示唆しているように思われます。そのうち重症化した人とそうでなかった人のゲノム解析の結果がでてくると思われますので、そういった研究にも期待が持たれます。

  • まだまだ解明されない点が多いコロナウィルス

またクラスター発生では本人はあまり症状が出ずに、感染を広げてしまうスーパースプレッダーが存在することもいわれていますが、この点については何らかの遺伝子変異と関係しているのか、感染状況によりそうなるのか現時点でははっきりしません。これも今後の研究課題です。

  • 正しい情報をしっかり集めて、不安視しすぎないように

一端限界が見えてしまえば、インフルエンザのように、たとえ死亡数が多くても経済活動まで制限されることにはならなくなるでしょうから、そこを見極めることが重要です。ここまで感染が広がればそれを完全にゼロにすることはもはや不可能ですし、それは無駄なことだと思います。

 

マスメディアの中にはゼロになるまで経済活動は再開できないような悲観的な報道をするところもありますが、決してそのようなことではないと思います。発生率が減れば重症化患者の医療機関への集中が止まるので、発生数がどの程度まで減れば大丈夫なのかは推定できるはずで、その辺で限界が見えてくるのではないでしょうか。

 

もう少しの辛抱です。皆で頑張りましょう。