名残の季節

10月は名残(なごり)の月ともいいます。
「名残惜しい」の名残です。これには2つの意味があるようです。

お茶を点てるために湯を沸かす風炉と釜。5月から10月までは畳の上に風炉をおいて、これに釜かけて湯を沸かします。
11月から4月までは畳を切って床から掘り下げた炉に釜をかけて湯を沸かします。
10月はこの風炉の最後の月であり、風炉に名残を惜しんでこの名前があるというのがひとつ。

もうひとつには5月に摘んだ新茶を茶壺に入れて半年間熟成させ、11月に茶壺の封印を解いてこのお茶を使います。
10月ともなるとこの茶壺のお茶も残り少なくなり、名残惜しいという意味もあるようです。

いわばわびの極致のような月ですね。

10月は夏の終わりの暑さもほとんどなくなり、秋の長雨も終わって晴れの日が多くなる、過ごしやすい季節です。
少し肌寒い日も出てきて、夏の間には客とは離れた位置にあった風炉も、この名残月には中置きといって畳み半ばまで風炉を客に近づける位置に据えます。
ほんの10数センチ客に炭火を近づけたところでそれほど暖かみは変わらないとは思いますが、これが茶人の心遣いというところでありましょうか。

名残の季節の食材は、その風情とは裏腹に、にぎわい豊かです。
サンマ、サケ、筋子などの魚食材やクルミ、栗などの木の実、また大豆やそばもこの時期収穫されるので、これらを使って新豆腐や新そばもまた香り豊かで楽しみたい季節です。それに高価で滅多に口に入りませんが松茸も旬ですね。また菊や冬瓜もこの時期、茶席にはよく使われます。

こんな時期は食材ばかりではなく、冷暖房ではない、自然の空気に触れて季節の温度を楽しんではいかがでしょうか。
旬の食材は生命のエネルギーに満ちているといわれます。

移ろいゆく季節を楽しみながら、自然のエネルギーを取り込んで癒されてみませんか。