平成25年度(2013年)のインフルエンザワクチンについて

暑かった夏もようやく過ぎ去って、朝夕過ごしやすい日が続くようになりました。時は10月、そろそろインフルエンザの季節が近づいてきています。
インフルエンザというと今までこのブログでは、タミフルやリレンザといった治療薬の話をしてきましたので、今回はワクチンの話をしたいと思います。

新型インフルエンザ対策講座
http://www.metabo-help.com/0024.html

インフルエンザという感染症の原因はインフルエンザウイルスというウイルスです。
インフルエンザにかからないための予防はマスクに手洗いですが、更に確実に防ぐためにはワクチンが必要です。
医療機関での接種はすでに始まっていますので、ワクチンを受けるかどうか迷っていらっしゃる方は以下のお話しをよく読んで決めてください。

一般的にワクチンというのは、ウイルスや病原菌の全部または一部を体内に入れて免疫反応を起こさせ、体の免疫システムに記憶させるためのものです。
ウイルスや病原菌の一部が一端免疫システムに記憶されると、二度目にそういった成分が体に入ったときに免疫システムは素早く対応して、排除に向かうことができます。

ワクチンには大きく2種類あります。
ひとつはウイルスの病気を起こす力を最小限に弱めて(弱毒化)、その弱ったウイルスを体に感染させることにより免疫をつける、「弱毒生ワクチン」と言われるワクチンと、もう一つはウイルスを殺して増えないようにしたり、免疫に最適な成分をさらに分割したりといった処理(不活化)をした「不活化ワクチン」です。

当然、生ワクチンの方が自然感染に近いので免疫をつける力は強いのですが、弱毒化したとはいえ、ウイルスは生きていますから、これが増えて悪さをすることが希にあり、副作用もある程度起こります。
一方不活化ワクチンは、ウイルスそのものは死んでいますから、体の中で増えることはありません。その分安全性は高いのですが、免疫をつける力は若干弱いといえます。

生ワクチンの代表的なものには今年の春に大流行した風疹のワクチンや麻疹(はしか)のワクチンがあります。また不活化ワクチンで代表的なワクチンがインフルエンザワクチンです。

インフルエンザはHA(ヘマグルチニン)というタンパク成分とNA(ノイラミニダーゼ)というタンパク成分がウイルスの表面に並んでいるので(インフルエンザウイルスの図参照)これを免疫システムのターゲット(抗原)にしてワクチンを作ります。
HAとNAにはいくつかの型があって、これらの組み合わせが毎年変わります。従って去年ワクチンを接種してせっかく免疫システムに覚え込ませても今年流行するインフルエンザの型が違うと免疫システムをくぐり抜けてしまうわけです。

インフルエンザウイルスがやっかいなのは、このように毎年抗原の型を変化させて、免疫をすり抜ける能力を持っているためです。
それなら変化しない部分をターゲットにしてワクチンを作ったらどうなの?という意見が出てくるかも知れません。
それはまさにおっしゃるとおりなのですが、それがなかなか難しくて、現在各大学や研究所で研究が進められているところです。

通常春先~夏に国の研究機関で今シーズン流行しそうな型を予測して、それに合わせて各ワクチンメーカーはワクチンを製造します。
この予測がぴったり当たればワクチン接種で流行が防げますし、あたらなかった場合には感染が広がります。
ただ型が大きく変化することは滅多に起こるものではなく、大抵は当たらずといえども遠からずという状態くらいにはなるので、ほとんどの場合ワクチン接種で大流行は防ぐことが出来ます。

子供の場合、初めての型ですとワクチンを1回だけの摂取ではきちんとした免疫システムが出来あがらないので、2回摂取の必要があります。
成人では多かれ少なかれ過去にインフルエンザには感染していますので、1回摂取すれば免疫システムのスイッチを入れることが出来ます。

高齢者では何度かインフルエンザにかかっているので、免疫システムが対応するはずですが、免疫システム自体が高齢になると働きが鈍くなります。
ですから高齢者ほどしっかりワクチンを接種しておく必要があるわけです。

妊娠している人はインフルエンザにかかったら解熱鎮痛剤など多くの薬剤が使えませんので、ワクチンを接種してしっかり予防しておきましょう。
インフルエンザワクチンは不活化ワクチンですので、妊娠していても接種できます。

従来のワクチンにはチメロサールという防腐剤が入っていたのですが、最近ではチメロサールの入っていないワクチンも市販されるようになってきました。
若干値段が高いのですが、やはり余分な化学物質は体に入れない方が良いと思います。
特に妊婦さんはチメロサールの入っていないワクチンをお勧めします。

ところで以前のコラムでインフルエンザにかかったら、無理して会社に出勤せずに最低3日間は家に閉じこもっていること、それがインフルエンザの流行を防ぐよい手段でもありますと書きましたが、最近発表になったある研究で、あちこち動き回る学生や会社員世代に集団摂取した場合と、家にいることが多い高齢者に摂取した場合でどちらが流行全体を防ぐことが出来るかというシミュレーションを行ったというものがありました。

結果は案の定あちこち動き回る学生や会社員世代にしっかり摂取した方が流行を抑えるという意味では効率的という結論でした。
ただこれは集団として見た場合どちらが効率的かという話なので、個人で見た場合は重症化しやすい高齢者に摂取した方が、生命の危機を避けることができますので、より意義が高いようにも思えます。

ワクチンの必要性を議論するとき、疫学研究は欠かせませんが、疫学研究というのはどのような側面から眺めるかで結果の解釈も変わってきますので、新聞雑誌、ネット情報などを見る場合は、いくつかの側面から検討してみる必要がありますね。