セロトニンダイエット??その2

脳の中で感情や精神に関係する中枢組織には、
このセロトニンによって働きがコントロールされている神経が多く分布しています。

セロトニン作動神経ではシナプスでのセロトニン量が神経の働きを左右します。
ところが、多くなりすぎると神経が興奮しっぱなしになるので、
これまた困ったことになるため、シナプスでは絶妙にセロトニンなどの
化学伝達物質をコントロールする仕組みをもっています
(セロトニン再取込作用:一端神経終末から放出されたセロトニンを
神経内に再びくみ上げてしまう)。

うつ病などではこのセロトニン作動神経の働きが鈍っていることがわかってきて、
このシナプスでのセロトニンが減らないようにする薬剤が、
うつ病の治療薬として開発されてきました(パキシル、ルボックス、
ゾロフトなどSSRI:セロトニン再取込阻害剤と呼ばれる)。

またセロトニンは消化管にも多く存在しており、
特に消化管の動きを支配している神経にある
セロトニン受容体を邪魔する薬剤(ゾフランなど)は、
抗ガン剤による吐き気を抑える治療に使われています。
脳血管ではセロトニンが減ることによって調節がうまくできなくなり、
血管が収縮したり拡張したりして頭痛が起こります。これを偏頭痛といいますが、
脳血管に分布するセロトニン神経の受容体にくっついて、
セロトニン類似の作用を起こす薬剤(イミグラン、マクサルトなど)が
治療薬として用いられています。

このようにセロトニンはひとつでも、脳や消化管に分布する受容体のタイプに違いがあるために、
その作用が違ってくるのです。
また神経細胞のシナプスという特別な部位でのごくわずかな
濃度が調節されることにより、その神経の働きが活発になったり、
抑えられたりするわけです。

よく、最近の人たちはストレスなどによりセロトニンが少なくなっているため
キレやすいだとか、セロトニンが少なくなっているためうつ病が多くなっているとか、
あるいはセロトニン合成のもとであるトリプトファンを多く含む食物を摂ると神経が落ち着く、
といった説明をしている本やインターネットサイトがありますが、
今までの解説でおわかりのように、事はそれほど単純ではなく、
もっと複雑なシステムが働いていますし、未知の部分もまだ多いので
今後の研究が期待されます。

ただしそうはいっても、食事での栄養素の取り方で、
脳内伝達物質が増加して脳の機能が影響を受けるという
臨床データもあります(たとえば飽和脂肪酸を多く摂っている人では認知障害の確率が高まる、
とかGABA、グリシンなどのアミノ酸にはリラックス効果や興奮作用がある、など)。

セロトニン作動神経の働きには神経細胞内のセロトニン量も係わってくるため、
脳内のセロトニンを増やすことは重要です。
食物やサプリメントの中には、うつ状態に効果のあるものが
ありますが(セントジョーンズワートなど)、
これは薬剤と同じようにセロトニン受容体に働く物質や神経細胞での
セロトニンを調節する物質が含まれていて、
脳内セロトニンを増やすと考えられています。

ただし、セロトニンはトリプトファンから作られるからといって、
単純にトリプトファンを多く含む食材やサプリメントを摂れば良いということではありません。
(次回完結)