またまた「コードブルー」というテレビ番組のお話で恐縮です。
前々回のストーリーでは、黒田医師という指導医が
レジデントをかばって自分が崩れた鉄骨に右腕を挟まれてしまい、
救命のために右腕を切断せざるを得ず、その後再接着には成功するも
外科医としてのキャリアは断念しなくてはいけないという話になりました。
どうも肘よりちょっと上での切断だったようですが、
確かにこの部位での切断と再接着は技術的には
それほど難しいものではありません。
また切断も押しつぶされて切断したものではなく、
再接着を前提に切断されたものですので、
神経、動脈の損傷も非常に少ない状態で切断されているため、
後の回復は比較的よいと思われます(もちろんこの話はフィクションです)。
ただこの黒田医師の設定が50歳くらいでしょうから
神経の回復がどの程度かというところが心配です。
手足に行く神経は脊髄から出るとその先は末梢神経といわれ、
神経細胞そのものはそこにありません。
神経細胞は脊髄の中にあって、そこからでた突起が細長くなって
神経の中を走って手足の末端まで入っています。
途中で切れてもきちんとつないでやれば、
また植物の根のように神経細胞のある脊髄から手足の先端に向かってのびていきます。
伸びる速度は平均的には1日1ミリくらいの速度です。
このテレビ番組のように上腕部ですと、
細めのうどんくらいの太さの神経を3本修復する必要があります。
図に末梢神経の構造を示します。
<末梢神経の構図>
1本の神経にはそれぞれの中に10本以上の細い神経線維束があり、
その一つひとつが筋肉を動かす運動神経だったり、
皮膚からくる知覚神経だったりするわけです。
もし切れた断端の両側でどの神経束がどれだかわかれば
それらの神経線維束同士をつないでやれば非常に機能回復は早くなります。
ただし上腕部での切断となりますと、切断したところから
末端まで40cm以上はありますから、大雑把に言って回復には
1年以上を要する事になり、その間に神経の通っていない筋肉は、
血液がしっかり通っていてもどんどん萎縮しますから、
神経が届いた頃には萎縮が進んで使えなかったという事にもなりかねません。
そのため電気刺激を与えたりして、
末梢の筋肉が萎縮しないようにするリハビリが必要となります。
先ほど50歳くらいだとちょっと心配、といいましたが、
子供ではこの回復が早くなります。
私もかつて割れたガラスで上腕の半分くらいを切ってしまった
小学生の修復をした事がありますが、神経の切断端がきれいだったので
うまく修復でき、後ほど無事に手も動くようになりました。
「先生、動くようになったよ」
と言った、あのときの患者さんの笑顔は今でも忘れる事ができません
(この話はフィクションではありません。念のため)。