クスリの幻想 -その3 薬の効果と副作用-

しばらくご無沙汰していましたが、薬の幻想についてまた続きを書きます。

過去の記事はコチラ↓

◆クスリの幻想 -その1 薬のタネ-
http://www.metabo-help.com/drblog/0004/1_7.html

◆クスリの幻想 -その2 大きな誤解-
http://www.metabo-help.com/drblog/0004/2_7.html

さて前回まで薬に効果があるとはどういうことかについて、薬を開発するときに欠かせない臨床試験について、その仕組みやその意義について書いてきました。
その中で、同じ薬を同じ量飲んでも効く人もいれば効かない人もいるというお話をしました。
今回はこれがどんな理由によるのかという話をしたいと思います。

薬も化学物質のもの、抗体やホルモンなどタンパク質のもの等いろいろな種類がありますので、最も一般的な小さい分子の化学物質の薬を例に取り上げたいと思います。

この種類の薬は大抵錠剤とかカプセルの形を取っています。飲みますと胃の中で溶けてばらばらになり、小腸の入り口に近いところで吸収されます。このときにどの程度吸収されるかが一番重要なところで、如何に培養細胞や実験ネズミで効果があっても、この吸収が悪ければ薬にはなりません。
しかもこの吸収は個人によって大きな差があります。これを「吸収のばらつき」といいます。

製薬会社では研究開発段階で、一番ばらつきの少ない化学物質を見つけて、それを薬にするわけですが、それでも実際にはけっこうなばらつきがあります。当然薬は体の中に入ってはじめて作用するわけですから、吸収されないことには薬としての効果が発揮できないことになります。

とりあえずその第一関門を突破して、吸収されたとしましょう。
今度はその吸収された化学成分が目的とする組織に届くかどうかが第二の関門になります。
大抵の薬の有効成分は分量としてはミリグラムの単位です。これが吸収されると体を巡っている血液に溶け込んで薄まりますので、目的とする臓器に届く頃にはミリグラムの1000分の1の単位である、マイクログラムの単位の濃さ、あるいはさらにその1000分の1であるピコグラム単位になります。
考えようによってはこんなわずかな量で作用が起こるわけですから、恐ろしいとも言えるでしょう。

こんなふうに吸収され、目的とする臓器や組織に薬が到達すると、そこで効果を発揮します。
もちろん他の臓器や組織にもほとんど同じくらいの量の薬が到達するわけですが、そこでは余分な効果を発揮して欲しくないわけです。つまりそれが副作用につながるからです。
そこで薬にいろいろな仕掛けを施して、目的とする臓器や組織で働きやすくすることが薬として重要な部分となります。

薬は目的とする臓器や組織で作用を及ぼした後、いつまでも体の中に残っていたのでは、他の臓器や組織で悪さをする可能性も出てくるため、一定時間体の中にとどまったら徐々に外に出す仕組みが必要となります。
このように体の中には体外から入ってきた化学物質を排除する仕組みがあり、これを解毒といいますが、最近はやりの言葉で言えば「デトックス」ということになります。
デトックスは主に肝臓と腎臓で行われていて、薬は肝臓で無害な形に変えられて腎臓から尿として出されたり、腸から便として出されたりします。
この肝臓で外から入ってきた化学物質を無害な形に変える酵素がチトクローム酵素といって、「CYP」とう略号で呼ばれます。これにはいくつかの型があり、CYP2D6、CYP2C9といった具合に書き表されます。
薬の種類によって使われるチトクローム酵素の型が違います。

さて、この「CYP」という酵素も細胞が持っている遺伝子から読みとられて肝臓で作られるわけですが、遺伝子のシリーズで書いてきましたように、この酵素の遺伝子にも変異があるのです。
この酵素の変異遺伝子を持っている人は、特定の薬の解毒作用が弱くなりますから、その薬を、変異遺伝子を持っていない人と同じ量飲むとなかなか代謝されない、ということになりますので、その薬の作用が強く、長く残ってしまいます。薬の量は平均的な人に効果があり、かつ副作用が出にくい量が通常使われる量として決められ、この量で国から承認をもらうわけです。
従ってこのような遺伝子変異のある人まで考慮されていないわけで、そんな人では薬が効きすぎて、副作用が出てしまうという事が起こりうるわけです。

アーテイジ虎ノ門クリニックでは生活習慣病関連の遺伝子検査を行っておりますが、この薬を解毒する酵素の遺伝子検査も行っています。
ほんのわずかな量で効果を現す薬ですから、体内での濃度がちょっと濃くなっただけでも副作用が起こる可能性があります。もちろん副作用が出たら薬の種類を変えたり、量を減らしたりすればよいわけですが、いくつかの薬を一緒に飲んでいる人ではどの薬が原因かわからない場合が多いのです。
また強い副作用の場合には後遺障害が残る場合もありますので、前もって調節の必要がある薬がわかっていれば無駄な危険にさらされなくてもすむわけです。

私は長年薬の開発に携わってきて、効果が高くて副作用の無い薬は夢ではありますが、それは望めないのが現実だということが分かってきました。
であるなら、副作用が避けられ、より効果を高くする方法があるなら、それを是非取り入れて、どうしても薬が必要な患者さんが安心して治療を受けていただけるようになって欲しいと願っています。

薬の代謝に係わる遺伝子の検査もまだ完全とは言いがたいですが、少しでも薬の危険性を減らすことに役立つ有力な方法のひとつだと思っています。
薬を毎日使っておられる方で、心配のある方は是非一度ご相談ください。

【遺伝子検査・肥満外来の専門医院】アーテイジ虎ノ門クリニック
http://www.artage-clinic.jp/