先日、テレビのある健康バラエティ番組でサバの水煮缶が紹介されました。
料理の話ではなく、『サバ缶を食べると痩せる』ということで、放映後、例によってスーパーの棚からはサバ缶がなくなったようです。
ダイエット外来をしている医師からはっきり申し上げると、何度こんなばかげたことを繰り返せば気がすむのでしょうか。
今までこのような話はしいたけ、バナナ、キャベツ、トマトなどなど何度も繰り返されてきました。
つい最近ですが、私もテレビ番組の制作会社の方とダイエット番組企画についてお話しする機会がありましたが、テレビ局側でもさすがにもう単品ダイエットを取り上げることはやめよう、というところが多くなったということでした。
そんな訳で、しばらくこの手の話はなかったのですが、またやってしまったというわけですね。
「やせたい」
「健康になりたい」
こういう思いを持つこと自体は何も悪いことではないのです。
ただ、単一の食品でそんなことが実現できるかどうか、ちょっと考えればわかることです。
もし仮にひとつの食材だけで本当に痩せる効果があるとしたら、それは体に有害な作用がある食材だと認識してください。
逆に言えば通常の食物、今まで流行った単品ダイエットの食材や、今回のサバ缶も含めて有害な作用があるわけではありませんので、それはつまりその食材だけでは簡単に痩せられるわけではないのです。
さて、話を元に戻してみましょう。
ではこのサバ缶で痩せられるという根拠はいったい何なのでしょうか???
どうやら番組でも紹介された「GLP-1」というタンパクが関係しているようです。
このタンパクについて説明しますと、これは消化管に炭水化物が入るとそれを認識して消化管から分泌されるインクレチンというホルモンのひとつです。
このホルモンが出ると、血糖値を下げるインスリンというホルモンの分泌が上がります。
それによって血糖値が下がるわけですが、そのインスリンを通じた作用以外にも食欲を抑えたり、消化管の運動を抑えて満腹感を強めたりといった作用があります。
インスリン分泌を増やすということから、すでに糖尿病の薬として日本でも認可が取られ、治療に使われています。またこの薬剤を糖尿病のない肥満症の人たちに使った臨床試験もいくつかあり、いずれもよい減量効果が得られています。
「GLP-1」は体内で作られるタンパクですから、食事中の糖分、炭水化物のように脂肪として蓄積される食事成分ではないもので、この分泌を刺激する物質があれば痩せられるというわけで、その成分がサバ缶に含まれているというのが、例のテレビ番組で紹介されたのです。
お分かりでしょうか?
少し考えればわかることなのですが、食事をすればGLP-1は分泌されますので、サバ缶(テレビではサバの水煮缶が紹介)を食べるとGLP-1が余計に分泌されるかもしれませんが、不健康な食材を一緒に、しかも大量に食べていれば何の役にも立たないということです。
このGLP-1に関連した薬剤は、すでに医療現場で使用されています。
このホルモンを人工的に作った注射剤以外にも、このタンパクの分解を邪魔してGLP-1濃度を上げる薬剤も内服薬として承認され、糖尿病の治療薬として使われているのです。
今後は糖尿病がある肥満の患者さんの治療には使われていくかと思いますが、糖尿病のない人は適応外使用になるため保険は使えません。
では自費でとなると、かなり高額な薬剤です。
それよりも医師の指導なしにこれらの薬剤を使うことは極めて危険ですので、どうしても痩せたいからといって、決して勝手に使用することのないようお願いします。
「薬に頼らない生活を、20年、30年後の健康」を提唱する側からすると、もっと体に優しい、健康的に痩せる方法があるのです。
その方法は個人個人によって異なりますが、少しでも多くの方にその方法を伝えていきたいと思っております。