先週後半から神戸で開催された日本リウマチ学会に行ってきました。
学会の名前は「リウマチ」ですが、対象となっている病気は関節リウマチだけでなく、いわゆる膠原(こうげん)病、自己免疫疾患に入る病気全般です。
メタボヘルプ.comの読者の皆さまの中にリウマチ患者さんがどの程度いらっしゃるかわかりませんが、少し関節リウマチ治療の話を書いてみます。
昔、私が診ていた関節リウマチの患者さんからお聞きした、今でも記憶に残っているお話があります。
それは「ある朝、目が覚めたら関節の痛みがすっかりよくなっていた、という夢を何度も見るのです」というお話です。
昨今、関節リウマチの治療法は劇的な変化を遂げていて、今ならかつてのあの患者さんの夢もかなえてあげられる、今回の学会ではそんなことを強く印象づけられました。
関節リウマチは、かつては副腎皮質ステロイド剤、消炎鎮痛剤といくつかの抗リウマチ薬といわれる薬剤で治療が行われていました。
抗リウマチ薬というと関節リウマチの特効薬のように聞こえますが、有効率は低く、また副作用も強いため使い方が難しい薬剤で、基本的には副腎皮質ステロイド剤を中心に関節痛に合わせて消炎鎮痛剤を使い、これで痛みのコントロールが難しい患者さんでは抗リウマチ薬を組み合わせて使うといったところでした。
したがって関節リウマチの患者さんは、病気を完全にはコントロール出来ず、長年にわたって関節が壊れていき、手足の変形や膝、股関節といった大きな関節が壊れると歩行もままならない状態になることも多かったのです。
ところが2000年代に入り、関節リウマチ治療の役者が変わってきました。
1960年代に白血病の薬として開発されたメトトレキサートが関節リウマチに有効であることが海外で報告され、抗リウマチ薬の標準薬として国内でも広く使われるようになりました。
またTNF-αという、炎症を起こした組織から分泌され、いろいろな細胞に悪さをする物質(細胞を刺激する物質という意味でこの手の物質をサイトカインといいます)を特異的にやっつける抗体が開発され、これが関節リウマチに大変有効であることがわかってきました。
また同じく炎症を起こした組織から出てくるIL-6というサイトカインの抗体も有効であることがわかり、これらの薬剤(生物製剤と総称されています)が国内でも関節リウマチの治療に多く使われるようになってきました。
今回の学会では5年程度の長期間の治療成績を含めて、これらの生物製剤を使った治療成績の発表が多くありましたが、副腎皮質ステロイド剤を中心に治療していた頃に比較すると、格段に治療成績がよくなってきています。
日常生活でもほとんど支障がなくなり、関節が壊れていくことも抑えられるとか、一部の患者さんでは薬の使用も止められた、という報告も出てきています。
このように生物製剤は関節リウマチ患者さんに劇的な治療効果をもたらしますが、注射時に風邪症状や蕁麻疹、ひどいときには血圧が下がってショック状態になるといった副作用もありますので、どんな医療機関でも気軽に使うわけにはいかないといったところが現状です。
また薬剤が高価なので、健康保険での3割負担でもけっこうな金額になるため、効果が高いことはわかっていても、患者さんの負担を考えると、お医者さんの中には広く一般的に使うことをためらう方も多いようです。
新しい治療薬により、関節リウマチ患者さんの関節が壊れていくのを抑えることができるというのは、リウマチ患者さんはもちろん、リウマチ治療に携わるドクターにとっても長年の夢でしたから、いよいよそんな時代に入ってきたな、という実感が得られた学会でした。